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Bernoulli多項式とEuler-Maclaurinの公式の話

2009年の論文
scholar.google.co.jp/scholar?c
によれば、Bernoulli多項式達は R 上の確率分布に対応するある種の多項式達 Pn(x) に一般化可能。

原点に台を持つデルタ分布に
Pn(x)=xn の自明な場合が対応しており、区間 (0,1) に台を持つ一様分布にBernoulli多項式 Pn(x)=Bn(x) が対応している。

そして、xn のケースではTaylor展開が得られ、Bernoulli多項式のケースにはEuler-Maclaurin展開が得られる。

しかし、それらの展開の任意の確率分布の場合への一般化についてはわからないと書いてある!続く

続く

基本アイデアは単純。

p(x)R 上の確率分布(確率密度函数)とする。そのモーメント母函数 M(z)

M(z)=Rexzp(x)dx
と定義される。n 次多項式 Pn(x)
exzM(z)=n=0Pn(x)znn!
と定義すると, Pn(x) 達はBernoulli多項式の一般化になっている。

これだけです。

例: p(x)=δ(x) (原点に台を持つデルタ分布)のとき

M(z)=Rδ(x)exzdx=1
だから、
exz=n=0nxnxnn!
なので Pn(x)=xn. これは自明な場合です。

続く

例: p(x)=pdf(Uniform(0,1),x) (一様分布)のとき

M(z)=01exzdx=ez1z
であり、
exzM(z)=zexzez1
なので、 Pn(x) はBernoulli多項式 Bn(x) になります。

exz/M(z) は物理的にはカノニカル分布としてよく出て来る形の式になっています。z=β とおき、 M(z)Z(β) と書けば、 eβx/Z(β) と見慣れた形になります。これの β=0 を中心とする展開なので、 Pn(x) は高温展開の係数になっています。このようにして得られるものが良い多項式一族になっているらしい。

続く

exzM(z)=n=0Pn(x)znn!

の両辺を x で偏微分することによって
Pn(x)=nPn1(x)
となることがわかる。

件の論文のように

Sf(x)=Rf(x+y)p(y)dy
と定義すると、S は多項式函数の空間の自己線形同型を与える。そして
S[exzM(z)]=Rexz+yzM(z)dy=exz
なので SPn(x)=xn となり、その条件で多項式 Pn(x) は一意に特徴付けられます。特に
RPn(x)p(x)dx=SPn(0)=δn0.

多項式の空間の線形自己同型 S による多項式 Pn(x)SPn(x)=xn という特徴付けはBernoulli多項式 Bn(x) に関する様々な公式が B の多項式中の BnBn(x) で置き換える操作で得られるという事実をよく説明しています。そのような公式達の背景には R 上の確率分布による線形自己同型 S が隠れていたわけです。

この話を知って、Bernoulli多項式がかなり身近になった気分になりました。ずっと前からの知り合いなのですが、正直、身近に感じたことは無かった。

Bernoulli多項式達の仲間達の中に xn 達が自明な場合として含まれており、R 上の確率分布ごとにBernoulli多項式の仲間がどんどん出て来る。仲間がたくさんいる数学的対象の方がずっと理解し易い。たくさんいるお仲間さん達と実験的な計算でたくさん遊べるようになってうれしい。

次にEuler-Maclaurin展開の話をします。件の論文には一般の場合についてはわからないと書いてあるので、以下の話は新しい話になっている可能性があります。

Taylor展開は f(x+h)f(n)(x)hn で表す公式です。

Euler-Maclaurin展開は f(x+h)Sf(n)(x)Pn(x) で表す公式の一種とみなせます。

私が繰り返しすすめて来たTaylor展開の導出の仕方を復習しましょう。出発点は

f(x+h)=f(x)+0hf(x+t1)dt1.
この公式の f,hf,t1 で置き換えた結果を右辺の積分の中に代入するというような操作を次々に繰り返すと、Taylor展開
f(x+h)=f(x)+hf(x)+h22f(x)+
が得られる。高校レベル!

これと同様のことを一般の場合にやるには

f(x+h)=Sf(x)+RK(h,t)f(x+t)dt
の形の公式があればよい。このような公式は次のようにして得られる。
f(x+h)Sf(x)=f(x+h)Rf(x+t)p(t)dt=R(p(t)δ(th))f(x+t)dt=R(F(t)H(th))f(x+t)dt.
ここで
F(t)=tp(u)du,H(th)={1(t>h)0(h>t).
すなわち
K(h,t)=F(t)H(th).
F(t) は累積分布函数、H(t) はヘビサイド函数です。
続く

すなわち

Kg(h)=RK(h,t)g(t)dt
と定めると
f(x+h)=Sf(x)+Kf(x+h).
Taylor展開の導出と同様に、これを f,f, に適用した結果を次々に代入すると
f(x+h)=Sf(x)+(K1)(h)Sf(x)+(K21)(h)Sf(x)++(Kn11)(h)Sf(n1)(x)+Knf(n)(x+h).
すなわち
f(x+h)=k=0n1(Kk1)(h)Sf(k)(x)+Rn,Rn=Knf(n)(x+h).

そして (Kn1)(h) を計算すると

(Kn1)(h)=Pn(h)n!
となることもわかります。以上をまとめると
f(x+h)=k=0n1Pk(h)k!Sf(k)(x)+Rn,Sg(x)=Rg(x+t)p(t)dt.

これが一般化されたEuler-Maclaurin-Taylor展開です。

例:p(t)=δ(t) のとき Sg(x)=g(x), Pk(h)=hk なので上の公式はTaylor展開そのもの。

続く

例:p(t)=χ[0,1](t) (0,1 区間の一様分布)のとき

Sg(x)=xx+1g(y)dy
でかつ Pk(h)=Bk(h) (Bernoulli多項式)なので、上の公式は次のように書き直される:
f(x+h)=xx+1f(y)dy+k=1n1Bk(h)k!(f(k1)(x+1)f(k1)(x))+Rn.
これの h=0 の場合がよく見る形でのEuler-Maclaurin展開を与えます。

巷でよく見るEuler-Maclaurinの公式の導出よりも圧倒的に意味が分かり易くなっていると思います。Taylor展開の一般化!!!

まとめ:すべての高次モーメントが絶対収束しているような R 上の任意の確率分布に対して、多項式達 Pn(x) が「カノニカル分布の高温展開」で構成され、それらを用いると積分剰余項付きのTaylorの定理の平易な証明とまったく同様にしてTaylorの定理の一般化が示される。そのように示したTaylorの定理の一般化は Euler-Maclaurin の定理を含んでいる。

引用した論文のRemark 4で "At present, we do not know how to extend this idea to a general Strodt polynomial." となっている部分はこれで解決していると思います。

たぶん、著者たちは「部分積分」という発想にこだわったせいで、簡単なことが見えなくなっていたのだと思います。

P.S. 私はそそっかしいので、結構大きな間違いが残っていると思いますが(自信がある)、本質的には正しい議論をしていると思います。

あほな誤植の訂正

exz=n=0nxnxnn!
は自明な誤植。正しくは
exz=n=0xnznn!
です。

多項式 Pn(x) の定義は

exzM(z)=n=0Pn(x)znn!
としたのですが、
exzM(z)=n=0pn(x)zn
で多項式 pn(x) を定義して使った方が書く記号の量が少し減るかも。この記号のもとで pn(x)
pn(x)=pn1(x),pn(x)p(x)dx=δn0
という条件で特徴付けられ、この特徴付けを使うと
(Kn1)(h)=pn(h)
を示せます。p(x)ρ(x)と書いた方が混乱が少ないかも。

黒木玄 Gen Kuroki @genkuroki

以上で述べた話は、確率論や統計力学なんかではすでに知られているんじゃないかという疑いも持っています。

登場人物があまりにもメジャー過ぎ。カノニカル分布の高温展開。